近視医療の女王・大野京子医師 特別インタビューその③
「レッドライト治療」について、お答えいただきました。
第3回目の今回は(第1回、2回の記事はこちらをクリック)子どもの近視治療を担うリーダーのひとりである東京医科歯科大学眼科学教室教授・大野京子先生に、近視の治療と予防、そして今、眼科医も注目する「レッドライト治療」について、お答えいただきました。Q:(子どもの近視ナビ編集部)まだ近視がそれほど進んでいないお子さんの場合、親御さんは「メガネはつくったけれど、長くかけていたほうがいいのかわからない」と悩むことが多いと聞きます。学校で黒板の字が見えないときなど、限られたときだけメガネをかけさせているご家庭も多いようですが、正しいメガネの使い方を教えていただけますか?
A:(大野先生)弱い近視の場合でも、きちんと度を合わせたメガネをかけて生活することが重要です。目と脳はつながっていて、目の網膜で受け取った像のデータが神経を通って脳の視覚中枢に送られ、そこで初めて画像として認識するのです。子どもの脳や眼球はまだ未完成なので、ピントの合ったデータを目から受け取ることによって発達していきます。ところが、メガネについて誤解している親御さんも多くて、外来診療の問診でも、「1日中メガネをかけさせていたら、近視が進みませんか?」とか「メガネの度は少し弱めに合わせておいたほうがいいでしょうか?」などと聞かれることも少なくありません。ピンボケの像を見続けていたら、ものを見る機能の発達を妨げることになります。Q:レッドライトの治療は、患者さんが自宅で行うのでしょうか。
A:当面は、眼科クリニックなどの医療機関が個人輸入でレッドライトの治療機器を購入し、それを患者さんが使用する形になると思います。そして、患者さんは機器のメーカーに使用料を支払います。それによって、使用回数や照射時間が設定され、処方通りに使用しているかどうかを管理できるシステムです。なお、治療機器は5年間使用することが可能であり、兄弟姉妹の場合は1台の機器を共用できるようにプログラムを組むことも可能だと聞いています。Q:子どもがレッドライト治療を続けられるのか、心配する親御さんも多いようです。毎日の治療を管理するのは大変ではないでしょうか。
A:私たちの施設の治験では、患者さんやその親御さんも早い時期から効果が出るのでとても喜んで続けてくださっています。意外だったのは、お子さんたち自身が、治療にとても積極的になってくれていることですね。小学校3、4年生くらいのお子さんでも、親御さんに言われるのではなく自分から毎日レッドライトをのぞき、屋外活動を増やす努力をするようになって、私たち医療者も驚いています。Q:レッドライト治療を受けられないケースはありますか?
A:治療の適応にならない例はほとんどないのですが、ごくまれに治療の副作用がみられる場合があります。これまで、のべ75,000人のお子さんがレッドライト治療を受けているのですが、そのうちの5名に副作用が報告されています。その原因を精査したところ、網膜色素変性症や夜盲症などの先天性・遺伝性の病気があるケースだったことがわかりました。これらの病気は、合併症として近視が起こる場合があるのです。小さい頃には眼底にも何も異常がなく、成人してから診断されることが多い病気です。したがって、レッドライトをはじめ光関連の治療を希望する場合には、血縁の人にそのような病気がないかなど、家族歴を確認することが重要です。また、これらの病気の患者さんには光過敏症があるケースが多く、レッドライトをのぞいた後に目をつぶっても残像が残るような場合は、治療をやめたほうがいいと考えられます。Q:レッドライト治療を受けていれば、ふだんの生活に気をつけなくてもいいでしょうか?
A:レッドライトに任せきりではいけません。日常生活では視力に合わせたメガネをきちんとかけ、スマホやタブレット、ゲーム機器の画面を見る時間を長くしない、室内にこもらず屋外での活動を増やすなど、近視を進行させるような要因はできるだけ少なくする意識を忘れないようにしてください。これは糖尿病の患者さんの治療と同じです。治療薬やインスリン注射だけに頼らず、食事の摂り方や運動を習慣づけることで血糖値を下げる努力をするのも、生活習慣病治療の一環ですよね。私たちの施設では、メガネのフレームに取り付ける「クラウクリップ」という小さなデバイスを使って患者さんの行動を測定し、近視を進めてしまうような行動をしていないか、必ずチェックします。Q:レッドライトは、近視を抑制する以外にも、なにか効果がありますか?
A:実は、レッドライトは美容医療の分野でも大きな注目を集めています。レッドライトは可視光線の中でも波長が長い光なのですが、皮膚の浅い部分(表皮)だけに留まらず、その下の真皮にまで到達することができるのです。したがって、真皮層のコラーゲンの再生や細い血管の血流を促進させて、皮膚のターンオーバー(組織の再生と交替)を進め、シワやたるみを改善するアンチエイジング効果につながると考えられます。Q:最後に、近視ナビの読者である親御さんに、先生からのメッセージをお願いします。
A:低濃度アトロピン点眼やオルソケラトロジー、そしてレッドライトなど、さまざまな近視の進行を抑える治療が研究開発され、実用化されてきています。それでも、現実にはこのような自費での近視治療がスタンダードになっているわけではなく、まだ対応が遅れている施設や地域も少なくありません。もちろん、医師の側が最新治療に関する知見をアップデートしていく必要があるのですが、眼科の診療も幅が広く、それぞれ細分化されていて、すべてに対応するのは困難です。インターネットなどを活用すれば、誰もが最新の医療情報を検索し、学べる時代になりました。最近では、「目によくない」とされてきた「ブルーライト」にも、近視を抑制する効果があるのではないかという論文が発表され、眼科医の間でも話題になっています。患者さんサイドもリテラシーを高め、正しい治療の知識を身につけたうえで「うちの子どもには、この治療を受けたいのですが」と申し出て、医師を驚かせるようなことも起きてくるでしょう。私たち医療者も、自分達の研究の成果が正しく全国に行きわたるために努力しなければいけないと思っています。同時に、医学的根拠のない治療法やサプリメントなどの宣伝文句に、患者さんたちがだまされないための啓発活動を進めることも大事だと思っています。
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