近視医療の女王・大野京子医師 特別インタビューその①

大野京子医師「近視の進行抑制治療は、大事な子どもの視力を守る先行投資」

大野京子医師「近視の進行抑制治療は、大事な子どもの視力を守る先行投資」
画像素材:PIXTA

最新の治療に目を向けていただきたい

今年7月に放映された人物ドキュメンタリー番組『情熱大陸』(MBS/TBS系)で取り上げられた眼科医の大野京子先生(東京医科歯科大学眼科学教室教授、日本近視学会理事長)は、アジア太平洋眼科学会で“Queen of Myopia(近視医療の女王)”として表彰された、小児の近視治療のリーダーのひとりです。大野先生は「子どもたちの大事な視力を守るために、親御さんたちは子どもの近視に関するリテラシーを高めて、最新の治療に目を向けていただきたい」と強調します。
大野京子医師「近視の進行抑制治療は、大事な子どもの視力を守る先行投資」

日本、アジアにとどまらず、子どもの近視は全世界的に急激に増加しており、しかも子どものうちに強度近視(失明にもつながることのある病的近視)にまで進む例もみられることが問題視されています。そうした状況に伴い、中国やシンガポールなどのアジア諸国を中心に、近視の進行を抑制する治療法の研究開発がさかんに行われてきました。

近視が進むのを抑える治療があることを知らないケースが多い

ところが、肝心の日本では、学校の健康診断での視力検査でひっかかってから、ようやく眼科に相談にくる患者さんがほとんどなので、近視が進むのを抑える治療があることを知らないケースが多いのです。そうした親御さんたちは「メガネをつくって、かけさせるのが治療」と思っていて、しかもせっかく作ったメガネを、お子さんがきちんと使えていないケースさえあるのが実状のようです。

「お母さん、お父さんの時代には、近視の研究も進んでおらず、メガネやコンタクトレンズによる視力の矯正についても間違った知識が多くて、いまだに『メガネをかけると近視が進んでしまう』などと思い込んでいる親御さんもいるようです。メガネは常にぴったり度の合ったものを使うことが重要なのです。必要な時期に適切なメガネをかけずに生活していると、かえって近視を進行させる結果につながります。視力を矯正せず、常にピントがボケている世界を見ることは、眼軸長(目の奥行きの長さ)を伸ばす要因になるうえ、見えにくいために目を細めて見ようとすることで眼球が圧迫され、余計に眼軸が後ろに伸びやすくなるのです」(大野先生、以下同)

また、通常、学校で行われるような視力表を見て回答する視力検査だと、子どもは目を細めて見たり、疲れていて集中力がなかったりするので、バラつきが出てしまいます。正確な視力の測定では、調節麻痺薬を点眼したうえで検眼機器を使ってジオプター(度数)を測定し、その数値で判断します。ジオプターが−0.5以上の近視になると、裸眼視力も落ちてくるため、メガネを装用することが必要とされています。

効果が認められた治療を行うことに有用な先行投資

そもそも、メガネやコンタクトレンズは近視を矯正することはできますが、近視の進行を抑制する治療はまた別のものです。昨今、低濃度アトロピンの点眼や就寝時だけ特殊なコンタクトレンズを装用するオルソケラトロジー、2つを併用する治療などが行われるようになりました。しかし、これらの治療は現在、保険適応外であり、自費での治療になります。

日本は、健康保険制度が完備しているため、保険が適用される治療を選ぶのが最良で最高という価値観に縛られがちですが、大野先生は「子どもの近視に関しては、そんなことを言っていたら間に合いません。治療の時期を逃します」と指摘します。

「大切なお子さんの将来の視力を守るために、親御さんは医学的根拠の乏しい民間療法などではなく、きちんと効果が認められた治療を行うことに有用な先行投資をしていただきたいと思います。

緑内障や白内障などと違って、近視はとにかく患者さんの人数が多すぎるので、その治療を保険でカバーすることは難しいでしょう。しかし、たとえばがんの治療に関しても、最近は保険でカバーできる治療にプラスαという形で先進医療を選択し、自費で負担する選択肢も増えています。

近視に関しても、低濃度アトロピン点眼のように1ヶ月数千円でできる治療もあれば、オルソケラトロジーやレッドライトなどの比較的高額の治療もあります。しかし、近視の特徴は、進行する時期がある程度限られていることです。言い方を変えれば、その時期に治療を受けさせることが重要であり、近視が進行する時期を逃してしまってからでは手遅れなのです。

さらに、低濃度アトロピン点眼やレッドライトは、近視の予防治療としての有効性についても検討が進んでいます。つまり、近視になる前の段階で、幼稚園児くらいから予防的に治療を始めるのです。早い時期から視力が落ちないように治療をはじめ、生活面でも気をつけることで裸眼視力1.0を維持することができるなら、それが最大のゴールだと思っています」

参考:日本近視学会ホームページ「近視の進行抑制治療」

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