近視医療の女王・大野京子医師 特別インタビューその②

赤い光を見るだけで近視を抑制できる!?「レッドライト治療法」

赤い光を見るだけで近視を抑制できる!?「レッドライト治療法」
画像素材:PIXTA

「レッドライト治療」

急増する子どもの近視を、なんとかして食い止めることはできないか----。

この課題を克服できる可能性のある治療法として、今、最も注目されているのが「レッドライト治療」です。

レッドライトとは、文字通り「赤い光」のこと。正確には、650ナノメーターという波長の可視光線(目に見える光)ですが、赤いといっても、私たちが知っている「赤外線」とは波長の異なる光です。
写真のような専用の治療機器に顔を当ててのぞき込むと、レッドライトが目に入るようになっています。それを1回3分、1日2回、週に5日間行うだけという、まったく苦痛を伴わない治療です!

2014年に、この光に近視が進む原因である眼軸長(目の奥行きの長さ)の伸びを抑える効果があることが中国で偶然に発見され、その後も研究が進められました。

2021年にレッドライト治療に近視の進行抑制効果が認められたという論文がアメリカの眼科学誌に発表されると、全世界で大きな話題を呼び、日本でも臨床研究が行われるようになったのです。
赤い光を見るだけで近視を抑制できる!?「レッドライト治療法」

国内でこのレッドライト治療の研究を手がけているリーダーのひとりが、東京医科歯科大学眼科学教室教授の大野京子先生です。同大学先端近視センターを拠点に、実際に子どもの患者さんにレッドライト治療を受けてもらい、その効果を検証しています。

大野先生のグループがレッドライトに注目した理由は「治療効果が抜群に高いこと」でした。

「これまでも、低濃度アトロピンの点眼やオルソケラトロジー、あるいは特殊なデザインのメガネによる治療などが行われてきましたが、それらに比べてレッドライトは圧倒的に効果が高く、週に4日以上、1年間使用した場合、90%以上のお子さんに近視の度数が抑制されたという結果が確認できました。中国では、週5日ではなく毎日使用するという実験をしており、ほぼ100%の効果を得られているそうです。

レッドライト治療に用いる専用の機器

レッドライト治療に用いる専用の機器


私たちがいちばんびっくりしたことは、近視の度数が抑えられる効果だけではなく、20%以上のお子さんに眼軸長が短くなるという効果----つまり、近視の原因そのものも抑制されるという結果が得られたことでした。しかも、その効果は、治療を始めてから1ヶ月ほどで見られたのです。

これまで、いったん伸びてしまった眼軸が短くなる効果が得られる治療法はありませんでした。レッドライトを当てることによって目の組織に栄養を送る血流が促進され、血管の組織が厚みを増してきます。その結果、眼軸が短くなると考えられます」(大野先生、以下同)

現在、発表されているデータは海外での研究結果ですが、大野先生のグループの研究でも、個々の患者さんで視力が改善するという効果が確認されています。これは画期的な結果であり、すでに近視が出来上がってしまった大人でも視力が戻る可能性があるということなのです! 大野先生のグループでは、近日中に強度近視の大人を対象としたレッドライト治療の臨床研究を開始する予定です。

「近年、スマホの使い過ぎなどによって、大人になってから近視になってしまったり、近視が進んでしまったりする人が増えているのです。強度近視によって網膜の萎縮が起こり、失明に至るようなことを防ぐためにも、このレッドライトの効果を検証していきたいと考えています。

近視の治療は急速に進むかもしれません

これまでの研究で、視力を維持するためには屋外の明るい光が必要であり、屋外活動の時間が多いほうが近視が進みにくいということはわかっていたものの、ある特定の光にこれほど効果があるということまでは解明できていませんでした。レッドライトの効果が証明されたことで、近視の治療は急速に進むかもしれません」

大野先生によれば、おそらく2023年の秋頃から、このレッドライトの治療機器を個人輸入できるようになるとか。
現在は、近視を発症する前の子どもへの発症予防効果や、ほかの治療法との併用効果などの比較試験も行われており、それらの報告が待たれるところです。

「長い間、小児の近視治療にたずさわってきた立場としても、『近視は病気とはいえない』『近視はアジア人に多い奇病』などと言われてきましたから、こうして近視を治療・予防することが注目され、レッドライトをはじめ効果の出る治療がいくつも見つかっているのは、とても嬉しいことです。以前は近視が少なかった欧米諸国でも、最近になって急速に近視になる人が増えてきていて、あわててアジアの知見を求めているというのが実状です。ゆくゆくは近視になる人がいなくなって、メガネやコンタクトレンズを必要とする子どもがいなくなることが、私の理想です!

近視治療はまさに日進月歩。レッドライトをはじめとする最新治療の今後の展開から、目が離せません。

参考:日本近視学会ホームページ「近視の進行抑制治療」

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