子どもの近視の種類と治療法
自分自身が目が悪くて苦労した(している)親御さんは、
わが子の視力も気になるものです。
視力の矯正が難しくなるばかりか、大人になってから黄斑変性や網膜剥離、緑内障など、失明につながるような目の病気を発症するリスクが高くなるからです。
そもそも、なぜ子どもは近視になるのでしょうか。遺伝?? それとも、ゲームのやりすぎ? あなたは正しい答えを知っていますか? 近視になる原因がわかれば、早い時期から予防策をとることもできそうですよね。
子どもの近視の診療に詳しい医学博士・眼科専門医の木下望先生によると、医学や医療機器が進歩したことによって、近年では子どもの近視のメカニズムはほぼ解明され、小さいうちから視力が低下する要因がわかってきたそうです。
「昔は子どもの近視については諸説があり、眼科医の間でも意見が分かれていましたが、現在では、近視のほとんどが目の奥行きにあたる“眼軸”が伸びるために起きる“軸性近視”だとわかってきたため、近年はその予防と近視の進行を防ぐ治療が始まっています」(木下先生、以下同)
- 《従来の子どもの近視の分類と原因》
屈折性近視
近くのものを見続けることによって、目のピントを調節する毛様体筋が固まることで近視になる仮性近視(偽近視)
近くのものを見続けることによって、毛様体筋がけいれんし、一過性の屈折性近視が起きるもの軸性近視
遺伝や近くのものを見続けるなどの要因により、眼球の外側の強膜が伸びて、眼軸(目の奥行き)が長くなることで近視になる
そして、毛様体の緊張をほぐして“屈折性近視” あるいは“仮性近視”を改善するための視力トレーニングや超音波治療を行ったり、目の緊張をとる目薬を毎晩、点眼したりといった治療が行われていたのです」
しかし、木下先生によれば、“仮性近視”という概念はすでに「眼科医の間では死語に近い」のだそうです。
「現在、子育てをしているお母さん、お父さんの中には、子どもの頃に眼科にかかって “仮性近視ですね”といわれた経験のある人も少なくないでしょう。しかし“仮性近視”は目の筋肉がけいれんを起こして一時的に遠くが見えにくくなる状態です。運動していて足が吊るのと似ています。
ですから、たとえば小さなモニタに目を近づけて、20時間もYouTubeを凝視し続けたりしたら、毛様体筋が過緊張の状態になって、一過性の近視になることはあるかもしれませんが、それがずっと続くことは考えにくいのです」
一方、医療検査機器が進歩したことによって、子どもの“眼軸”の長さを正確に、しかも簡単に測ることが可能になりました。もとは、主に白内障の手術前に、眼内レンズの度数を決めるために使う検査機器でしたが、目に触れることもなく、検査前の点眼薬なども不要で、目の写真を撮るように簡単・安全に子どもの目の中を撮影することができるのです。
この機器で測定したデータをもとに、“眼軸”が伸びると視力が低下することがわかり、“軸性近視”説が正しかったことが証明されました。
問題は、メカニズムはわかったものの、肝腎の“眼軸”の長さを元に戻すことは、現代の医学をもってしても不可能だということです。
「いったん背が伸びたら、背を低くすることができないのと同じで、目の奥行きの長さも縮めるのは不可能です。そのため、最近では低濃度アトロピンという点眼薬や、就寝時に特殊なコンタクトレンズを装用するオルソケラトロジー、それらの併用療法、多焦点ソフトコンタクトレンズの装用などの治療によって、それ以上“眼軸”が伸びてしまわないように、進行を抑える治療が行われるようになっています」
根治する方法がないからこそ、子どもの近視はできるだけ予防し、そして視力低下の兆しを早く見つけることが肝腎だということですね。
〈参考文献〉
木下 望 『近視から子どもたちの目を守れ! 近視と闘い続けた眼科医からのメッセージ』(2021年、幻冬舎)
平岡孝浩・二宮さゆり編『クリニックで始める 学童の近視抑制治療』(2021年、文光堂)
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