視力は子どものうちに決まる? 幼少期に進行する軸性近視の正体とは?

早く近視になった子どもほど、将来、視力が悪くなる?
幼少期から進行する、“軸性近視”の正体とは。

早く近視になった子どもほど、将来、視力が悪くなる?幼少期から進行する、“軸性近視”の正体とは。
画像素材:PIXTA

「近視」とは、

近くのものはよく見えるのに、遠くのものがぼやけてしまう症状を表したものです。
そんなの知っているよ、と思う方もいらっしゃるかもしれません。
では、なぜ近視になるのか、皆さんは知っていますか? 実は、近視になってしまう原因がはっきりしたのは、最近のことなのです。そして、原因がわかりはじめたことにより、近視は、「早期発見、早期抑制」が合い言葉になりつつあるのです。

目は、カメラと同じような構造をしています。
カメラのレンズに当たる水晶体が厚くなったり薄くなったりすることで、ピントが合わされています。
水晶体は、毛様体という筋肉が縮むと厚みを増し、近くのものにピントが合います。
逆に毛様体が緩むと水晶体は薄くなり、遠くのものにピントが合うようになります。
毛様体が水晶体の厚みを正しく調整し、眼球の奥の網膜(カメラのフィルムやイメージセンサーに当たる)できちんとピントが合った状態が“正視”、つまり目が良いということになります。

近視には、2種類あると言われています。

ひとつめは、「屈折性近視」です。
近くばかり見て毛様体筋の収縮状態が続く→やがて毛様体の収縮が固定化→水晶体が厚いままになる→ピントが網膜より前で合ってしまう、という考え方です。
そしてふたつめは、「軸性近視」。
近視の原因は眼球そのものの形が変わり、奥行き(「眼軸長」といいます)が通常より伸びていることによるものだという考え方です。
この場合、たとえ毛様体筋が正常に働いて水晶体の厚みを正しく調整できていても、ピントの合った像は網膜まで届かなくなります。

かつて、近視のおもな原因は「屈折性近視」の方で、眼軸長の伸びは強度近視の人のみに見られる現象だと考えられていました。
屈折性近視の原因は凝り固まってしまった毛様体。それなら、毛様体の筋肉を解きほぐしてあげれば、近視は治る可能性があるはずです。
完全に固まってしまった大人は無理だとしても、まだ近視になって日が浅く、筋肉が柔軟な子どもであれば、その可能性は十分にあるはずだと考えられました。

しかしこれは「近視にまつわる20世紀の理論にすぎない」。
そう断言するのは、医学博士・眼科専門医 木下望先生です。

「21世紀に入ってから“IOLマスター(眼軸長測定装置)”という検査機器が眼科に普及しました。検査は、正面から目をパシャっと撮ったら終わりなので、子どもでも簡単に、そして正確に眼軸長を測れるようになりました。そして多くの近視の子どもの目を測定したところ、ほとんどが、屈折性近視ではなく眼軸長の伸展が原因、つまり軸性近視だということが分かったのです」これが21世紀現在、主流になりつつある“近視のメカニズム”です。

そこまで分かっているのなら、伸びた眼軸を元に戻せば、近視は治るのではないですか?
という素朴な疑問を木下先生に投げかけたら、申し訳なさそうな顔をしてこんな話をしてくれました。
「一度伸びた身長をもとに戻すことはできません。残念ながら目も同じ。一度伸びてしまった眼軸を、もとに戻すことはできないのです。つまり現在のところ、近視を回復させる手段はありません。もとの状態に戻せないとなると、治療の重点は眼軸長の伸展を抑制し、近視を“これ以上進行させないこと”になります」

木下先生によると、近視になった年齢が早い人ほど、眼軸長は大きく伸びてしまうといいます。
その結果、もしも近視進行の抑制をしなかった場合は、小学校以前の早期に発症した場合はマイナス6D以上の強度近視に至る可能性が高いのだそうです。

一方、中学校以降に発症するとマイナス3〜6Ⅾ程度の中等度近視、高校以降に発症した場合はマイナス3未満の弱度近視になることが多いとされています。

近視の収束時期、つまり眼軸長の伸展が止まるのは、大学生の頃とされています。
近視の発症が早かった人ほど、眼軸長は長い期間伸び続けるわけですから、強度近視に至る可能性が高いのも自明の理です。

子どもの近視はなるべく早く保護者が気づいてあげること。そしてなるべく早く眼軸長のそれ以上の伸展を防いであげることが大切です。
現在の医療機関では眼軸長の伸展を抑えるために、目薬の処方(眼軸長の伸展を抑える効果がある「低濃度アトロピン点眼液」)、特殊なコンタクトレンズの処方(就寝中につける「オルソケラトロジー」や、多焦点ソフトコンタクトレンズ)、特殊なメガネの処方(累進屈折力メガネ)、それらの併用療法などがおこなわれています。

〈参考文献〉
木下 望 『近視から子どもたちの目を守れ! 近視と闘い続けた眼科医からのメッセージ』(2021年、幻冬舎)
平岡孝浩・二宮さゆり編『クリニックで始める 学童の近視抑制治療』(2021年、文光堂)

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