子どもの視力と学習
子どもの目が悪くなったときに困ることといえば、
“黒板の文字が読みづらい”という問題がまず、頭に浮かびます。そして、“うちの子は近視です、と先生に伝えて、席を前のほうにしてもらえればだいじょうぶ”と考えている親御さんが多いのではないでしょうか。ところが、実際には学校や学習塾の現場で、視力の低下によって子どもがこうむる不利益は、それだけではなさそうです。
公立高校で長く英語科の教員を務め、その後も予備校や個別指導塾で子どもたちを教えている岡田順子先生は、視力の低下によってコミュニケーションが十分にとれなくなる可能性を指摘しています。
「親御さんは、わが子の目が悪くなって黒板の文字がよく見えないといったら、席を前のほうに替えてもらえばいいと考えているかもしれませんが、文字だけの問題ではないと思うんです」
岡田先生によれば、目が悪い子どもは黒板の文字が見えないだけでなく、視界がぼやけているために、先生の顔の表情を読むこともできないといいます。そもそも、小学校低学年までは、自分が黒板の文字や先生の顔がはっきり見えているかどうか、子ども自身には判断できません。
そのため、先生の話を聴いていても、表情がわからないと楽しくないし、先生の話にタイムリーに反応できず、“この子、私のいってることがわかっているのかしら……”と思われたり、実際に授業の理解度が低くなったりすることもありえるのではないでしょうか。
「授業中だけでなく、休み時間でも、目のいい子のほうが積極的にこちらに寄ってきてくれる傾向があるんです。はっきり目を合わせてコミュニケーションがとれるということは、性格にも影響してくるのでしょうか」(岡田先生、以下同)
さらに年齢が進むと、視力が悪いために、先生との人間関係に誤解が生じる例もあるようです。
「これは、私が教え子から聞いた実話ですが、小学生のとき、クラスメイトに視力の悪い子がいて、黒板を見るときにいつも目を細めて見ていたところ、先生に“お前、目つきが悪いぞ”と怒られて往復ビンタされた、というのです。もちろん、本人はそんなつもりはなかったんだと思いますが、先生側からは、常に反抗的な目つきでにらまれていると受け取ったのだと思います。今だったら、問題になるようなエピソードですが、教員側も人間ですからね」
アニメの中では、メガネ=ガリ勉
岡田先生は、最後にこんな興味深い話をしてくれました。「実は、私の母も小学校の教員だったのですが、母が現役だった昭和40年代の子どもたちは、みんなよく外遊びをしていて、近視の児童は、40人のクラスにひとりかふたりしかいなかったそうです。近視の児童はメガネをかけていて、成績は中くらいより下の児童が多かったともいってましたね」
“外遊びの時間が、子どもの近視に深く関わっている”というデータを裏付けるような証言です。テレビアニメの中では、メガネ=ガリ勉で成績も上位というキャラクターが多いようですが、実際にはそうでもないようです。
「昔に比べると、今の小学生、特に女の子たちは、明らかに外で遊ぶことが少ないですよね。中学生になると、部活で運動をする機会も増えるのですが……。もちろん、住んでいる地域の環境や、コロナの影響も大きいと思いますが、これからますます近視になるお子さんが増えるのではないかと心配になります」
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