近視は遺伝するのか?
のび太くんはどうして近視になったのか?
「近視の原因」について
『ドラえもん」に出てくる国民的キャラクター、野比のび太くんといえばメガネがトレードマーク。強度の近視の持ち主です。さて、今回はそんな彼を題材に、「近視の原因」についてお話していきます。近視の原因には、“遺伝”と“環境負荷”があります。
のび太くんの近視は、一見すると先天的な“遺伝”の影響が大きいように思えます。
なぜなら、のび太くんの日常生活はというと、ママに怒鳴られない限り、勉強なんてほとんどしていません。
たまに読んでいる漫画以外、本を開いているところを見たことがないですし、そもそもそうしたものがこの世に登場する前に描かれた作品ですから、のび太くんはスマホやタブレットも持っていません。つまり近視になるような環境負荷が、ほとんどかからない生活を送っています。
一方、そんなのび太くんをどやしつけるママは、のび太くんと同じような度のキツいメガネをかけています。
だからきっと、のび太くんの近視はママから遺伝したものだろうと考えられるのです。
医学博士・眼科専門医の木下望先生によると、両親のうちの片方が近視である場合、その子どもが近視を発症する確率は、そうでない子どもと比べ、約2倍になるのだそうです。
さらに両親ともに近視であった場合は確率がグンと跳ね上がり、およそ5〜6倍になるという調査結果もあります。
近視とは、
あまりにもはっきりとした数字に、驚かれる人もいるでしょう。近視とは、眼軸長(角膜頂点から網膜までの長さ=眼球の奥行き)が伸びてしまうことによって起こります(軸性近視)。
そして親子は顔のつくりや背の高さと同様に、眼軸の長さも似るので、近視も遺伝しがちというわけです。
「やっぱり遺伝か……」と、我が子の将来の視力に関して諦めモードになった方がいましたらちょっと待ってください。
木下先生は、このようにも言っています。
「近視が遺伝するという事実は、統計的に裏打ちされているので否定しようがありません。でも近視の原因は遺伝以外にもあるので、そこを注意することで発症を食い止めることはできます。また、もしなってしまったとしても、治療によって進行を抑制することができます。だから先天的な要因については、あまり神経質になったり悲観したりする必要はないんですよ」
子どもの近視は、外遊びの時間を増やすこと、近くのものは正しい姿勢と距離で見ること、近距離のものを見る時間を減らすことで、予防できる可能性があるのです。
環境面での負荷
近年、近視は爆発的増加の傾向にありますが、この現象は遺伝的な要因によるものではなく、環境面での負荷が大きくなったことによるもの。木下先生は、統計的に実証されていることとして「外遊びを1日2時間以上していると、両親とも近視の子どもであっても発症率が低く抑えられ、そうでない親から生まれた子どもとほとんど差がなくなる」というデータを紹介してくれました。
外遊びの及ぼす環境的なプラス要因は、遺伝性のマイナス要因を上回るわけです。
再び、のび太くんのことを考えてみると……。
のび太くんのパパはどうやら近視ではなさそうです。つまり、のび太くんの近視発症リスクは、“両親のうちの片方が近視だった場合”に当てはまり、通常の2倍程度だったはず。
のび太がもっと活発な性格で、1日2時間以上しっかり外遊びをしていたら、近視発症は食い止められていたかもしれません。
気の弱いのび太を追いかけ回し、家に閉じこもりがちにさせてしまったジャイアンも、“環境負荷”のひとつだったのかもしれません。
さらにいえば、昨今では、ほかの記事にも書いているように、子どもの近視抑制の治療法もさまざまなものが出てきています。近視は遺伝とハナから諦めなくてもいい時代であることは間違いないようです。
近視が遺伝する心配のある子どもほど、しっかりと外遊びさせる。
この心がけは、意外と大事なのです。
〈参考文献〉
木下 望 『近視から子どもたちの目を守れ! 近視と闘い続けた眼科医からのメッセージ』(2021年、幻冬舎)
平岡孝浩・二宮さゆり編『クリニックで始める 学童の近視抑制治療』(2021年、文光堂)
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