近視の治療最前線
世界注目の近視の進行を抑える方法とは?〈後半〉
「低濃度アトロピン」による治療は
もともと眼科でピントの調節麻痺や瞳孔を開くために使われていた点眼薬を、ごく低い濃度に希釈した「低濃度アトロピン」には、眼軸(目の奥行き)が伸びるのを抑えて、近視の進行スピードにブレーキをかける効果があることについては、前の記事で説明しました。CS眼科クリニック院長の宇井牧子先生は、近視のことで相談にくる患者さんに、この「低濃度アトロピン」による治療について次のように説明しています。
「毎晩、寝る前に目薬を1滴さすだけです。小さいお子さんと親御さんにとって治療のハードルが高くないことは、この治療の大きなメリットです。アトロピンの濃度が薄くなっているので、日中の光をまぶしく感じるようなことはほとんどなく、手もとを見る作業にも影響はありません。
この治療だけで、近視の進行を完全にストップさせることはできませんが、少なくとも2年間は中止せずに続けることが重要です。そうすれば、なにも治療しない場合と比べて、近視の進行を軽減できるというデータが出ています」
残念ながら、この「低濃度アトロピン」の目薬をさす治療だけでは、眼軸が伸びるのを抑える効果は十分とはいえません。両親が近視で、遺伝的に近視になることが予想される場合や、小学校に入る前からすでに近視を発症し、将来的に強い近視に進行する可能性が強い場合などは、寝ているときだけ特殊なレンズを入れる「オルソケラトロジー」と、この「低濃度アトロピン」の併用療法がより効果的だとされています。
「ただし、乱視が強いお子さんや、すでに強い近視がある場合、また重いアレルギー体質の場合は、通常のオルソケラトロジーの治療をすることができません。また、年齢の低いお子さんや恐怖心が強いお子さんなどは、治療用のレンズを目に入れることを強く拒否してしまうこともあります。そのようなケースでは、この『低濃度アトロピン』だけの治療を行うことになります」(宇井先生)
また、宇井先生は、「外来診療の際によく聞かれる質問」として、何歳まで続けたらいいのか──アトロピン治療のやめどき──についても、次のようにアドバイスしてくれました。
「0.01%の低濃度アトロピンの治療効果については、国内外の研究機関で検証されてきました。近視の主な原因である眼軸(目の奥行き)が伸びて近視が進行する可能性のあるうちは、途中でやめてしまうと近視が進みます。子どもの成長には個人差がありますが、現段階での結論として、身長の伸びが止まる18歳頃までは点眼治療を続けるべきだとお伝えしています」
長引くコロナ禍で、子どもたちも外遊びの時間が減り、室内で本やスマホ、タブレットを見つめる時間が多くなって、近視の子どもが激増している昨今。定期的にお子さんの目をチェックして、近視のはじまりのサインを見逃さないようにしたいものです。
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