【近視抑制治療の今を語る Vol.2】江坂まつおか眼科 松岡俊行院長〈第1回〉

- 実際に子どもの近視抑制治療はどのように行われているのかを語っていくこのシリーズ。第2回目は、大阪府吹田市に医院を構える松岡俊行先生です。子どもの近視治療に携わる意義、また情報発信の必要性について語ってくださいました。具体的に診療の現状を知ることで、子どもの近視に悩む親御さん、そして、眼科医の先生方にもぜひ参考になれば幸いです。
子どものうちから近視という病気の進行を抑制し、失明という事態を予防する
春や秋の健診時期になると、学校保健調査の結果が発表され、視力1.0以下の子どもの数が増えているというニュースが新聞やTVをにぎわせます。そして、小学校、中学校、高校のいずれかのカテゴリーで、視力1.0以下の人数が「過去最多」と報じられるのが、もはや当たり前となっているのが現状です。
こうした調査を見るまでもなく、子どもの近視が増えていることは、日々の診療でも実感しています。
近視はメガネやコンタクトレンズがあれば日常生活にはほとんど支障をきたさないことから軽視されがちですが、50代、60代になったときに、網膜剥離、緑内障、黄斑変性、強度近視といったやがて失明にもつながりかねない病気になりやすくなります。遺伝も影響するので予防したからといって近視にならないとはいえないのですが、しっかりとした予防をすることは、将来の大きな病気を防ぐという大切な使命をまっとうすることになるのです。
最近、近視予防に取り組む眼科医も増えてはきましたが、全国的に禁止の治療に対する認知はまだまだ少ないというのが実感です。取り組む人、近視予防に関して発信する人が増えることが、未来を守ることにもつながると警鐘を鳴らすべきと日頃から考えています。
私が行っている近視予防は、低濃度アトロピン点眼と、オルソケラトロジーの2つです。
低濃度アトロピン点眼は、就寝前の一滴の点眼のみという患者さまにとって、比較的に負担の少ない治療法といえますし、医師にとっても、点眼薬の処方後は、経過観察を定期的に行うという取り組みやすい治療法だといえるのではないでしょうか。
オルソケラトロジーは、アメリカにおいて30年以上前から研究されており、現在では安全性・有効性が認められ、日本国内でも2009年より厚生労働省の認可を受けている近視抑制の方法になります。
簡単に説明すると、近視などの眼科的屈折異常を治療する角膜矯正療法で、特殊なカーブデザインのハードコンタクトレンズで近視化した角膜形状を矯正するというものです。
実は私の娘たちも小学校低学年で近視により視力が低下しました。一般的には、メガネやコンタクトレンズで矯正するということになると思います。
ですが私自身、30歳の時にレーシック手術をうけ、裸眼で見る明るい世界に感動した経験があるので、オルソケラトロジーに踏み切りました。その甲斐あって娘たちは何かと煩わしいメガネやコンタクトレンズなしの快適な生活を送ることができています。
さまざまなデータをみると、低濃度アトロピン点眼と、オルソケラトロジーの併用の近視抑制効果が高そうなので、当院では、この治療法をおすすめしています。クリニックで自費診療を導入するには、講習会を受けるなどの必要性があるほか、眼軸長や角膜形状解析装置など、いろいろな準備が必要になるのですが、積極的に近視治療に取り組む眼科が増えることが、子どもの未来を守るという点で、社会的にも非常に意義のあることという信念のもと、日々、診療に取り組んでいます。
近視抑制が眼科に定期的に通うきっかけになる
低濃度アトロピン点眼にしても、オルソケラトロジーにしても、長期間の処方、調整が必要になります。その分、患者さんとの接触頻度が上がりますから、そのほかの目の異常にも気がつきやすいというメリットもあります。当院で診療を受ける患者さんの多くは中高年層ですが、土曜日、日曜日になると子どもの患者も少なくありません。近視抑制が、眼科との長いお付き合いをはじめるよいきっかけになっているように感じています。
点眼治療もそうですが、オルソケラトロジー治療も患者さんへの目への負担は比較的少ないと考えます。レーシックやICLのような外科的治療ではありません。ハードコンタクトレンズで角膜形状を変える、いわば目のコルセットみたいなものです。就寝中にオルソケラトロジーレンズを装用して角膜の形を矯正し、起床後にレンズを取り外すというものです。角膜の形状は一定時間維持されるため、近視の矯正効果も持続し、日中の長い時間を裸眼で過ごせます。また、装用によって近視の進行を抑制する効果も期待できるという画期的な特徴も持ち合わせています。
江坂まつおか眼科 松岡俊行院長
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