30年後、世界で10億人が失明する?近視をほったらかしたらヤバイ理由(前編)
30年後の子どもの目が危ない!
世界の全人口の約半分が近視になる
あなたはもちろんのこと、特にこれからの未来を生きていく、あなたの子どもの目に関する、驚きのデータが発表されているのを、皆さんはご存知でしょうか?2016年にオーストラリアのブライアン・ホールデン視覚研究所が発表したところによると、近年のはっきりとした増加傾向がこのまま続けば、なんと「約30年後の2050年には、世界の全人口の約半分が近視になる」というのです。
さらに、同研究所は「全人口の10パーセントは近視の中でも特に症状が重い、強度近視になる」とも推計しています。
でも、確かに目が悪くなるのはいやだけど、もし子どもが近視になったら、眼鏡とか、コンタクトで矯正すればいいのでは?などと、もし、あなたが楽観的に考えているのであれば、それは少し危険かもしれません……。
“全人口の半分”というのは衝撃的な言葉ですが、より恐ろしいのは「全人口の10パーセントが強度近視になるかもしれない」という予測のほう。そう話すのは、医学博士・眼科専門医 木下望先生です。
「近視がどんどん進行し、マイナス6.0D以上の強度近視になると、極端にものが見えにくいという以外にも様々な問題が生じてきます。具体的には、黄斑変性、網膜剥離、緑内障などの病気を発症してしまうリスクが高まります。さらにマイナス10.0D以上の最強度近視の人は眼底がまだら模様になってしまう網脈絡膜萎縮という状態になり、それらはいずれも、失明に至る可能性がある恐ろしい病気です」
ちなみに近視の状態は、視力検査で一般的に用いられる『1.5』とか『0.8』というような数字ではなく、レンズの屈折力を表す“ジオプター(D)”という数値で表現する方が正確です。
ジオプター(D)は、メガネの処方箋やコンタクトレンズの箱に書いてあるので、ご存知の方も多いかもしれません。
マイナス3.0D未満が弱度近視、マイナス3.0D〜6.0Dが中等度近視、そしてマイナス6.0D以上が強度近視となります。
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マイナス3.0D未満 ▶ 弱度近視
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マイナス3.0D〜6.0D ▶ 中等度近視
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マイナス6.0D以上 ▶ 強度近視
木下先生は、近視の発症年齢が低いほど強度近視に至る確率が高くなると警鐘を鳴らします。
「子どもの近視は、眼軸長(角膜頂点から網膜までの長さ=眼球の奥行き)が伸びてしまうことによって起こります。眼軸長の長さは親から子へ遺伝しますので、いくら気をつけていても、ご両親が近視の場合はお子さんも早くから近視を発症することがあります。そこで重要なのは、もし近視を発症しても、進行をなるべく抑える努力をすることなのです」
日本は戦争中、兵役検査で落とされる強度近視はお国の恥であるという考えかたにより、近視に対する差別意識が広がりました。
その反省から、戦後は“近視は個性である”という教育がおこなわれ、子どものうちに近視を発症しても、「メガネなどで矯正すればいいのだから」と放置されがちになりました。
しかし木下先生は、子どものうちから度の強いメガネで矯正をするだけでほおっておくと、さらに近視を促進させてしまうと言います。
“近視も個性のひとつ”“メガネやコンタクトレンズで矯正すればいい”という楽観視は、特に子どもに関しては危険な、前時代的発想なのかもしれません。
現在は近視の進行を抑える方法についても研究が進んでいます。
子どもの近視としっかり向き合い、進行を抑制して強度近視にまで進まないようにしてあげることこそが、21世紀の親の務めなのかもしれません。
〈参考文献〉
木下 望 『近視から子どもたちの目を守れ! 近視と闘い続けた眼科医からのメッセージ』(2021年、幻冬舎)
平岡孝浩・二宮さゆり編『クリニックで始める 学童の近視抑制治療』(2021年、文光堂)
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