動体視力と視力は違うの?
子どもの視力と運動。
視力と運動能力
我が子は運動が大好きだし得意。うまくいけばスポーツで大活躍するようになって、将来はプロの道も……。
なんて淡い期待をしている親御さんも多いのではないでしょうか。
でも、最近、子どもの視力がだんだん落ちてきているのであれば要注意。
一般的に、視力と運動能力には相関関係があることが証明されています。
今回は、視力と運動能力の関係について考えてみましょう。
アーチェリー、バスケットボール、テニス、野球、サッカー、卓球の選手を対象にしたある調査によると、全体の矯正視力1.2のときの競技能力を100とすると、0.7で80、0.3では60に低下していたそうです。
競技別に見ると、視力による影響がもっとも顕著なのは野球で、その次がサッカー。
逆にアーチェリーではさほど影響がありませんでした。
これはどういうことなのでしょう?
兵庫県で新見眼科など5軒の眼科医院を運営する医新会理事長、新見浩司先生に尋ねてみました。
「視力とスポーツ能力の関係は、いろいろな研究で明らかになっていますが、種目によって状況が違います。特に近視の人が本領を発揮しにくい種目は球技系スポーツ。その理由は、近視だと動体視力の向上に限界があるからです」
私たちが一般的に“視力”と呼んでいるのは、静止している対象物を見る力で、これが「静止視力」。
そして球技系スポーツで特に重要とされる「動体視力」には、以下の二種類があります。
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① 左から右、右から左へと水平方向に動く目標を見る能力=DVA動体視力
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② 遠くから近く、近くから遠くへと前後方向に動く目標を見る能力=KVA動体視力
動体視力は静止視力よりも低いのが普通で、ある研究によると視力1.2の人の動体視力は時速50kmで0.7、時速100kmで0.6にまで低下していたそうです。
このうち、水平方向に動く目標を見る①DVA動体視力の方は、いくらトレーニングをしても向上させることはできませんが、前後方向に動く目標を見る②KVA動体視力はトレーニング可能で、静止視力近くまで向上できるとされています。
優れたスポーツ選手は、日頃の練習によって動体視力を懸命に鍛えるとともに、ベースとなる静止視力を高く保つように心がけています。
一方、アーチェリーのように動体視力のトレーニングが不要なスポーツでは、視力の良し悪しと競技能力の相関関係が比較的小さくなります。
しかし、遠くの的がボヤけてほとんど見えないほど近視が進んでしまっては、好成績を期待することもできません。
いずれにしても近視の人がスポーツをする際には、スポーツ用メガネやコンタクトレンズを使ってしっかり矯正することが重要なのです。
さらに気をつけてほしいことは、近視がはじまった子どもの視力を、それ以上落とさないようにすることだと新見先生は続けます。
「1日2時間以上、つまり週14時間以上屋外に出ている子どもは近視発症率が下がるというはっきりとしたデータがあります。太陽光に含まれるバイオレットライトという光線を一定時間以上浴びると、近視を進める主な要因である眼軸長(眼球の奥行き)の伸びが抑えられるのです。近視になって運動に自信を持てなくなると部屋にこもりがちになり、より近視が進むという悪循環に陥りがちです。もしも近視がはじまったら、これまで以上に積極的に外出するようにしましょう」
スポーツが得意なお子さんに近視の兆候が見えたら、すぐに適切な矯正をし、これまで以上に屋外で一生懸命運動をさせること。
そうすれば目はそれ以上悪くならず、スポーツももっと上達するという一石二鳥の結果が得られるかもしれません。
〈参考文献〉
新見浩司・監修『お医者さんがすすめる視力回復 本物の「目の体操」7日間メニュー』(2013年、リンケージワークス)
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